- 中枢神経
- 末梢神経
- 循環器系
- 消化管
- ホルモン
勃起不全の原因である薬剤性EDとは?
薬剤性EDとは日常的に服用している薬剤が引き起こしている副作用によるED(勃起不全)です。
新規ED患者の約25%が薬剤性EDであるというデータもあり、現在医薬品を常用している人でED症状を自覚しているのであれば、薬剤性EDかもしれません。
大まかに分けると、主に以下のような器官に関わる薬剤が該当します。
ただし、これらに該当する治療を行っていても、薬剤性EDの原因となる薬剤は限られています。
ご自身が服用する医薬品が薬剤性EDに該当するのか、ここでは具体的に勃起へ影響する薬剤や成分を紹介していきます。
また、併せて薬剤性EDの改善方法や予防策についても解説していきますので、ひとつずつ確認していきましょう。
目次
薬剤性ED(勃起不全)の症状
薬剤性EDの症状についてはほかのEDと同様、性欲があるにもかかわらず勃起できない以下のような状態が特徴です。
- 興奮していてもなかなか勃起しない
- 勃起しても硬度が足りず、挿入までいかない
- 挿入はできるが、途中で勃起状態を維持できなくなる(中折れ)
これらの症状を引き金に更にED症状が進行し、ご自身の性生活に自信が持てなくなったり、性交渉自体をやめてしまう場合もあります。
また、薬剤性EDは特定の薬剤を常用することで症状が出てしまう人に限定されるため、年齢面などで症状が出やすくなるといった傾向はありません。
ちなみに薬剤性ED以外に以下のEDがあり、こちらは年齢にも傾向があります。
- 器質性ED
動脈硬化や神経障害、生活習慣病によるEDで、50代~60代に多い - 心因性ED
仕事や日常、性交渉の失敗などにより心が引き起こすEDで20代~30代でも起こる - 混合性ED
器質性、心因性をあわせたED
薬剤性EDを含めたこれらEDにも共通するED症状を引き起こすメカニズムにもふれておきます。
通常、性的な刺激により脳から信号が陰茎に伝わり陰茎海綿体の動脈が拡張して血液の流入が増えることで勃起状態となります。
脳からの伝達、動脈の拡張、血流のいずれかが足りず海綿体への血液流入が不足すると、勃起できない、あるいは勃起状態を維持できなくなります。
これがED(勃起不全)です。
次項では薬剤性EDの原因について詳しく解説していますので、確認していきましょう。
薬剤性ED(勃起不全)になってしまう原因
薬剤性EDを引き起こす医薬品は限られています。
まずはそれらの医薬品をすべて把握しておく必要があります。
以下、薬剤性EDになってしまう原因として、それぞれに作用する薬剤のどうEDを引き起こすのかということや、気をつける点などについて詳しく解説していきます。
中枢神経に作用する薬剤
中枢神経に作用する薬剤は以下のようなものがあります。
- 解熱剤・消炎鎮痛剤
- 抗うつ薬(三還系抗うつ薬、SSRI、MAO阻害薬)
- 抗不安薬
- 抗けいれん薬
- 抗精神病薬(フェチノアジン系、プチロフェノン系、スルピリド、その他)
- 向精神薬・催眠鎮静薬
- 睡眠薬
このうち抗うつ薬は飲みはじめに副作用があらわれやすくなっています。
体内で効果の安定する定常状態となると、その時点でEDの症状がみられるようです。
うつにはセロトニン、アドレナリン、ドーパミンが関わっていますが、それぞれEDを引き起こす過程に違いがあります。
まずセロトニン受容体を遮断してセロトニンを増加させるタイプの抗うつ剤は脳に作用して性欲を低下させる場合があります。
アドレナリン受容体を遮断するタイプになると、血圧が下がるはたらきから勃起力を維持する血流が得られなくなるため注意しておきましょう。
そしてセロトニン再取り込み阻害薬に関しては、服薬中止後も性機能障害が続くという病態も一部で存在すると確認されています。
ドーパミンに作用するタイプはプロラクチンというホルモンを増加させますが、これにより高プロラクチン血症が発症した場合、EDを含む性腺機能低下症を発症する可能性に注意が必要です。
具体的には、セロトニン再取り込み阻害薬のパロキセチンで約64.51%、セルトラリンで67.05%、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のベンラファキシンで約75%がEDを発症するというデータも報告されています。
また、抗精神薬に関してはリスペリドンや定型的抗精神薬から非定型抗精神病薬オランザピンへの変更で性機能障害が回復したという報告も。
ちなみに、中枢神経にかかわる疾患でEDを併発する割合は以下のような報告がされています。
- 脊髄損傷で約54~95%
- 脳卒中で約48.3%
- パーキンソン病で約68.4%
このため、ED発症の観点から見ても、疾患を治療しなくてもED発症の可能性は高いが、治療のために薬剤を服用しても同様にEDとなるリスクがあるということがわかります。
末梢神経に作用する薬剤
末梢神経に作用する薬剤は以下のようなものがあります。
- 鎮けい薬
- 骨格筋弛緩薬
- 抗コリン薬
- 局所麻酔薬
鎮けい薬や抗コリン薬のアトロピン系薬剤の抗コリン作用は、膀胱平滑筋の収縮力を弱める作用があるため、ED症状を起こしやすくなっています。
市販の総合感冒薬にも弱い抗コリン作用をもつ場合があるので、慎重投与が必要です。
循環器系に作用する薬剤
- 降圧薬(利尿薬、サイアザイド、スピロノラクトン、Ca拮抗剤、交感神経抑制剤、β遮断薬)
- 不整脈治療薬
- 血管拡張剤
- 脂質異常症治療剤
降圧薬には上記の薬剤でEDを発症するとされていますが、α遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬に関してはEDへの影響がないとされています。
ただしα遮断薬には別の性機能障害として、射精障害が報告されている点には留意しておきましょう。
また、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)に関しては、勃起機能に保護的に働くという報告がされています。
そもそも高血圧自体がEDを引き起こす要素となっているため、服薬前後の状態を把握しておくことが重要です。
降圧剤を服用する前には、事前にEDの症状をチェックしておきましょう。
消化管に作用する薬剤
- 消化性潰瘍治療薬
- 鎮けい薬
- 抗コリン薬
鎮けい薬と抗コリン薬は末梢神経に作用する薬剤で説明した通りです。
そしてこれらのほか、以下のホルモン剤やアレルギー用剤にも薬剤性EDが認められています。
- エストロゲン製剤
- 抗アンドロゲン薬
- 5α還元酵素阻害薬
- ステロイド
- テォフィリン
- β刺激薬
常用している薬剤があるかどうか確認しておき、ご自身のEDの原因になっていないかを把握しておきましょう。
薬剤性ED(勃起不全)の治療・改善方法は?
薬剤性EDとわかった場合の治療、改善方法はいくつかの選択肢があります。
具体的には以下の5つの改善方法が紹介されています。
- EDが自然に回復するまで経過を観察する
服薬後早い段階で症状が起きる薬剤などもありますが、逆にいえばある程度の時間が経つと勃起不全が改善される場合もあるため、すぐに治療を開始しないという方法もあります。 - 原因となっている薬剤の服用を中止、もしくは減らす
薬剤が原因となっているEDなので、原因薬剤の服用を中止したり容量を減らせばED症状を改善する場合が多くなっています。
ただし、一部の薬剤では服薬中止後も性機能障害が残る場合があるということと、服薬を中止した場合、その疾患の治療ができなくなる可能性もあるため、個人の一存では行うべきではありません。 - 休薬日を作る
薬剤を服用しない日があることでED症状の改善がみられる場合があります。
こちらも勝手に薬剤を休止することは、治療の妨げとなる可能性もあるため、必ず医師や薬剤師に相談してから実行します。 - カウンセリング
薬剤が引き起こすEDも、薬剤によってはカウンセリングで改善する場合もあります。
医師の指示に従いましょう。 - ED治療薬を服用する
PDE-5阻害薬などのED治療薬を服用することで、ED症状を改善できる場合があります。
ED治療薬での改善については以下で詳しく解説します。
治療薬での改善
EDを改善させる方法はさまざまでしたが、ED治療薬バイアグラが販売されて以来、治療薬で改善させる方法が完全に主流となりました。
ただし、器質性、心因性、混合性のEDの場合は、服用できる場合が多くなっています。
対して薬剤性EDは、ED治療薬と併用すると危険な薬剤もあるため、今服用している薬剤が併用できるかどうかを調べることが大前提となります。
ED治療薬はバイアグラ、レビトラ、シアリスという3大ED治療薬に代表されるPDE-5阻害薬や、アルプロスタジルという有効成分の尿道に薬剤を浸透させるタイプの治療薬などがあります。
ED治療薬として世界的に広く服用されているのはほとんどがPDE-5阻害薬です。
PDE-5阻害薬はED(勃起不全)の原因とされているPDE-5という酵素の働きを阻害します。
この働きにより陰茎海綿体に大量の血液を流入させるという効果をもたらすため、勃起不全の症状が改善します。
アルプロスタジルは血小板によるドロドロの血液を改善させることにより、陰茎海綿体の血流を改善させて勃起不全の症状が改善させます。
そのためアルプロスタジルを成分にする薬剤は、尿道に薬剤を直接注入して浸透させるという使用方法をとります。
薬の変更
薬剤性EDは薬剤によってED症状をおこしているため、医師の判断のもと休薬日を設定し、その日にED治療薬を服用するという方法が取られることもあります。
しかし、ED治療薬を服用したい日をすべて休薬日にすると、本来の病気の治療がおろそかになってしまいますよね。
そこで取られる方法として、治療効果がほぼ同じである別の薬剤に切り替えることで、薬剤性EDをある程度防ぐという方法です。
この方法なら薬剤の服用を止めることもないので、もともと治療している症状に対しての弊害もないという点が大きなメリットになります。
ただし、薬剤の変更は自己の判断ではできないということと、変更する選択肢があるかどうかは医師の診察を受けなければわかりません。
なにより、急激な症状の悪化の危険も伴うかもしれないため、必ず事前に相談しましょう。
薬剤性ED(勃起不全)についてまとめ
以上が勃起不全の症状の1つ、薬剤性EDについての解説です。
最後にもう1度要点をまとめてお伝えします。
- 薬剤性EDとは薬剤が引き起こしている副作用によるED(勃起不全)
- 中枢神経、末梢神経、循環器系、消化管、ホルモンの治療で使用する薬剤で起こることがある
- 治療方法は経過観察での自然治癒、原因薬剤の中止、休薬日をつくる、カウンセリング、ED治療薬の服用がある
- ED治療薬はバイアグラ、レビトラ、シアリスといったPDE-5阻害薬か、アルプロスタジルを有効成分とする治療薬がある
- ED治療薬はクリニックで処方してもらうか、個人輸入で購入することができる
- 個人輸入の場合は約40%が偽造品という調査報告があるのであまりおすすめできない
- 原因薬剤を違うものに変更できればED症状を改善させられる可能性があるので、医師の相談の元、薬剤を変更するという方法もある
薬剤性EDはED治療薬の服用や、薬剤の服用の仕方によって改善できる見込みのあるEDです。
ただし、安易な薬剤の容量変化、変更、休止は大変危険です。
薬剤性EDの自覚がある人や、その疑いを感じている人は、まずなによりEDの専門医やもとの病気の主治医に必ず相談しましょう。